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大津地方裁判所 昭和55年(ワ)49号 判決

原告

大橋弘明

右法定代理人親権者父

大橋洋三

同母

大橋満喜子

原告

大橋洋三

原告

大橋満喜子

右原告ら訴訟代理人

中田順二

右原告ら訴訟復代理人

大瀬左門

被告

伊東綾子

右訴訟代理人

吉原稔

野村裕

木村靖

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1、2は当事者間に争いがない。

二請求原因3(民法七一七条の責任)について

被告が、滋賀県滋賀郡志賀町大字北比良小字カヤ九三四番地所在の「亜矢」およびその付近においてバンガロー、キャンプ場を経営していたことは当事者間に争いがない。右争いのない事実、前記一項記載の争いのない事実(請求原因2)と〈証拠〉を総合すれば、(1)、被告は、右「亜矢」およびその付近においてバンガロー、キャンプ場を主として水泳シーズン中経営していたものであるが、日本ウインドサーフィン協会主催によるウインドサーフィン大会が、昭和五三年九月一五日から同月一七日までの三日間にわたり、前記近江舞子浜先の琵琶湖上で行われたため、特別に営業を行い、バンガローを貸与し、右「亜矢」においてはジュース、菓子、カレーライス、うどん等を販売していたこと。(2)、右ウインドサーフィン大会には全国から一〇〇名を超える参加者があり、右「亜矢」の近くでテントを張つていた人達もあり、また、本件事故当日は、右ウインドサーフィン大会の最終日であつたため、ごみなどを浜辺の穴に放棄する者もあつたこと。(3)、右近江舞子浜は水泳シーズン中はいうまでもなく、それ以外の時期においてもキャンプ等に利用されており、浜辺にごみ、空缶等の廃棄物を放棄したり、焼却したり、あるいは穴を掘つて埋めたりする者があつたこと。(4)、被告の右営業は、他から借り受けた土地、建物によつて行われたものであるが、本件穴は、右「亜矢」から三五メートルの地点にあつたものの右借地上ではなく、また、右「亜矢」付近は被告の借地であるか否かをとわず、水泳客等の自由な往来がなされていたこと。(5)、本件事故の翌日における滋賀県堅田警察署司法警察員の実況見分等の結果によれば、本件穴の中には爆発物とみられる、トルエン、酢酸エチル、キシレンを含有する有機溶剤が入つていたブリキ製の缶の外、飲料用液が入つていたとみられる空缶、ウイスキー等が入つていたとみられる瓶とその破片、アルミはく製皿、ダンボール紙、布切れ、スリツパ等が多量に埋められていたこと。以上の事実を認定することができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。以上の事実関係からすれば、本件穴にあつた右廃棄物は右近江舞子浜を利用した何人かによつて放棄されたものとみられる可能性が大であるが、右可能性の中で被告が右穴を掘り、これを常時利用して廃棄物を放棄していたとか、あるいは、右穴を事実上設置、管理していたとみるには未だ充分な証拠がないものといわざるを得ない。

この点につき、前掲田辺証人は、ウインドサーフィン大会中、広い浜辺のところどころでごみを燃やしたり、穴を掘つて空缶などを埋めたことはある旨証言するところであるが、右証言は、同人のその余の証言に照らせば、右「亜矢」からの廃棄物のことを証言しているわけではなく、浜辺に散在していたごみや空缶のことを証言しているものとみるのが相当である。

また、前掲検甲第五号証と被告の供述によれば、被告が本件穴付近に本件事故後「焼却中は危険ですから絶対側に近寄らないで下さい。」と書かれた立札を立てたことは明らかであるが、その余の本件証拠からみれば、そのことの故をもつて、右穴を被告(またはその従業員)が掘つたものであるとか常時使用していたとかの事実を推認することは困難である。

更に、仮に、被告経営のバンガローの貸与を受けた者、被告借地上にテントを張つていた者等が、本件穴を掘り、使用していたことがあつたとしてもそれらの者の右行為を被告の行為と同視することはできない。

してみれば、被告は本件穴の占有者であるとは言えず、従つて、仮に、右穴が民法七一七条にいう工作物(原告らが主張するような、被告の営業の施設と不可分一体となつた工作物という意味ではない)だとしても、被告が同法の責任を負ういわれはない。

三請求原因4(民法七一五条の責任)について

右田辺が被告の従業員(清掃人)であること、本件事故当日の午前七時頃右「亜矢」付近を清掃して集めた松葉を本件穴において焼却したものであることは当事者間に争いのないところであるけれども、右焼却に際して、いかなる場合にも右穴の中に危険物が混入しているかどうかを点検、調査する義務を負うものではなく、本件のような場合、右の義務内容は、臭気を発していることなどからして通常の注意をもつてすれば爆発のおそれのある危険物であることが容易に発見できる場合に限定すべきであり(本件につき、通常の注意をもつてすれば爆発のおそれのある危険物であることが容易に発見できる場合であつたことを認めるに足る証拠はない)、また、前掲松田証人の証言によれば、右松葉の焼却による火は、同人がしばらくして再び右穴に近付いた時には既に消えていたということである(右証言は措信できる)から、その時間的経過からみて、右松葉の焼却と右爆発との間に因果関係を認めることは困難である。更に、被告あるいはその従業員において、右松葉の焼却のため以外に本件穴を利用していたものと認めるに足る証拠はなく、仮に、被告の客が何等かの程度において利用したとしても、右田辺において、その分についてまで危険物混入の有無を点検、調査する義務を負うものではない。従つて、被告に民法七一五条の責任を問うことはできないものといわねばならない。

四以上の次第により、被告に対しその責任を負わしめる根拠を欠くから、その余の点につき判断するまでもなく本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(森弘)

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